次の日になってもシンデレラは何かに悩んでいるようでした。
心配になったネズミが訪ねてもなんでもないと首を振ります。
そうしてなにやら忙しそうにしておりました。
そうしてその数日後、お城からおふれが出されました。
曰く、「このガラスの靴にぴったりと合う足を持つ娘をお妃にする」というものでした。
もちろんそのガラスの靴は、舞踏会の夜、シンデレラが忘れていった片方のものでした。
「やったじゃないかシンデレラ! 」
その日の夜、ネズミが目を細めてそういうと、シンデレラは何故だか不機嫌そうにネズミをみやりました。
「なにがいいのよ」
「なにがって、お妃になれるんだよ? 」
シンデレラは黙って唇を尖らせます。
そうしてしばらくぷいと横を向いていましたが、やがてぽつんと答えました。
「あたし別にどうでもいいもの」
「え? 」
「ガラスの靴に合う足を持つ女の子なんてきっとたくさんいるわ。その中から誰でも好きな子をお妃様にすればいいのよ」
その拗ねた様な口調に、ネズミは困ってあごの下の白い毛をもふもふといじります。
そうして考えました。
女の子の考えはネズミにはわかりません。
けれどももしかしたら、王子様がそんな大雑把な方法でお妃を選ぶということが気に入らないのかもしれないなと思いました。
「大丈夫だよ。あれは魔女のガラスの靴だから、君にしか合わないようにできていると思うよ」
そういうと、シンデレラはやっぱり変な顔をするのでした。
ネズミの言葉通り、ガラスの靴はおふれを聞いてお城に詰めかけた女の子たちの誰の足にも合いませんでした。
そこで王子様は、国中の家を周り、ひとりひとりの女の子にガラスの靴を履かせてみることに決めたのです。
そうして、シンデレラのお屋敷にも王子様たちはやってきました。
きらびやかな馬車から光のような王子様があらわれたとき、ふたりのお義姉さまがたは色めきたちましたが、灰にまみれたシンデレラだけはひとりうんざりとした顔をしておりました。
「では私から」
一番上のお姉様がうきうきと進み出る中、シンデレラは後ろの部屋の暖炉で灰かきをしておりました。
そんなシンデレラの頭上から、ふいに聞きなれた声が聞こえてきました。
「シンデレラ、行かないの? 」
それはネズミでした。昼間は顔を出さないネズミでしたが、さすがに今日は心配になってシンデレラのようすを見に来たのでした。
シンデレラはちらりとネズミを見て、そうしてぷんと頬を膨らませます。
「行かない」
「どうして、だって……」
「どうしても」
シンデレラは頬を膨らませたままがりがりと乱暴に灰をかきだします。
灰はもうもうと舞い上がり、シンデレラをいつも以上に汚していきました。
と、そのときふたりのお義姉さまとお継母さまがシンデレラのいる部屋にかけこんできました。
そうして扉を閉めると、3人で相談を始めました。
「おかあさま、どうしましょう。私にはあの靴は小さすぎるわ」
「私もよ」
「なんとかして入れなさい。あの靴に足が入りさえすれば、お前たちはお妃になれるんだよ」
「どうあっても無理よ」
「とても小さいのですもの」
シンデレラはその話を灰をかきだしながらその話をなんとなしに聞いておりましたが、次にお継母さまが言った言葉にぎょっとして振り返りました。
「ならお前たち、足の指とかかとを切り落としなさい。それなら入るでしょう」
その言葉にシンデレラだけでなく、お義姉さまたちもぎょっとしたようでした。
真っ青な顔でお継母さまをみつめています。
「そ、そんなこと……」
「痛いことぐらい我慢なさい。それでお妃になれるなら安いものでしょう。
これでこの家は一生安泰だわ」
「そんな……」
「さあ早く! 」
おびえるお姉様の眼前に、お継母さまは断ち切りバサミを突き出しました。
そのお顔の中にある瞳はぎらぎらと底光りしていて、とても人間のようには思えませんでした。
お義姉さまふたりは身体を寄せ合い、顔を真っ青にさせてぶるぶると震えております。
それを見てシンデレラは立ち上がりました。
お義姉さまたちにもさんざんいじめられました。
しかしさすがに、ガラスの靴なんかのために指やかかとを切り落とされてしまうのは可哀そうに思えたのです。
シンデレラは扉を開けて王子様たちのいる応接間に入ると、こう頼みました。
「王子様。わたしもこの家の娘です。ガラスの靴に足を入れることをお許し願えますか」
王子様もそのお付きも、灰まみれのみずぼらしい娘が入ってきたのを見て驚いていましたが、さらにその少女がそんなことをいうので顔を見合わせました。
お付きの人が厳しい声をあげます。
「これ娘。こ汚いお前なんぞがあのときの姫君であるわけなかろう。試すだけ無駄だ。ひっこんでいろ」
すると美しい王子がお付きの人を遮るようにこう言いました。
「まあいいではないか。どんなみずぼらしい娘であろうと、私と結婚したいのには変わりないのだろう。試させてやるがいい」
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