「僕の太陽:39」

<イカロス>






「リコとお母さんは、お父さんにとって太陽と同じなんだよ。」

父親の膝の上に座っていたリコは、きょとんとして父親の顔を見上げた。

「太陽?お日様?」
「そう。」

父親はにこりと笑って4歳の子供の頭を撫でる。
リコはくすぐったそうにえへへと笑い、そうして大好きな父親のお腹に背中を預けた。

大きくて暖かな父親の身体。
その腕の中に居るだけでリコの頬は緩んでくる。
いつも忙しいお父さん。
けれども日曜日だけはお父さんはリコのものだった。
父親の声は低くかすれていて、それでいてとても優しかった。


「太陽はね、昔の人にとっては神様同然だった。世界にたくさんある神話のいちばん偉い神様のほとんどが太陽神だと言われている。
日本でも天照大神という太陽の神様がそうなんだ。」
「かみさま?」
「それでいて一番人間の生活に身近なものでもあった。日が落ちると夜になる。日が昇れば朝になる。それだけでも生活に影響を与えるのに、見上げればいつでも見ることが出来る。
当たり前のように一番近くに居るのに、それでいて一番大切なものだったんだ」
「いちばん、たいせつ?」
「うん」
だからね。ふわりと微笑んで父親は言う。



「だからリコとお母さんはお父さんにとって太陽なんだ」









僕の太陽39









「司くん」

あの時、あの男の人は言った。

「本当はね、僕はリコを連れて行こう思っていた」

男の人はぼろぼろに見えた。
痩せて、顔色も悪かった。
それでも優しそうな雰囲気はやはり彼女にそっくりだった。

「リコは僕にとって大切な子だ。そして多分……リコにとっても。だから、一緒に連れて行こうと思っていた」

そうして男の人はふと遠くを見る。
何故だかその様子に胸がざわざわと騒いだ。

連れて行くの?じゃあぼくはお姉ちゃんと会えなくなるの?

だから男の人の顔を見ながら慌てて言った。

そんなの嫌だよ。絶対、絶対嫌だよ。

すると男の人は微笑んだ。
優しいような悲しいような泣き出しそうな。そういうものが全てごちゃごちゃになったような不思議な笑みだった。

「……うん。連れて行くのは、やめたよ…」

本当?

「ああ…。君が、いるから」

司はきょとんとした。
男の人は司の頭に手を置く。そうして優しい声でこう続けた。


「リコのことを太陽と思ってくれる君が居るなら……きっとあの子は生きていける」



そう。きっと。



……僕が、居なくても。













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イカロス








「僕の太陽:40」に続く





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