「僕の太陽:21」<呼ぶ名前> |
触れられた場所はびっくりするぐらい熱かった。 名を呼ぶ声も、呼吸さえも、全部飲み込まれた。 何が起こったのかわからなくて頭が真っ白になる。 熱い。 苦しい。 息ができない。 どのくらい時間が経ったのかリコにはわからない。 永遠のように長い時間にも思えたし、ほんの一瞬のことだったのかもしれなかった。 司が離れる。 途端リコは酸素を求めて咳き込んだ。 生理的に浮かんだ涙で視界がぼやける。 にじんだ視界の中、弟の冴え冴えとした瞳が奇妙な光を宿しているのが見えた。 苦しくて苦しくて、身体に力は入らなかった。 自分の身体さえも支えられずに膝がかくんと折れた。 そんなリコを支えているのは弟の手だった。 左手首と後頭部にまわされた大きな手。 その手に髪留めがあたった。 ぱちんと音がする。 いつもまとめてある髪が落ちてくる。 司の手に絡まる。 司が力を込めたのが身体ごしにわかった。 反射的に身体が強張る。 必死に絞り出した声が震えた。 「・・司、くん・・なに・・。」 司は答えなかった。 黙ったまま身を屈めてくる。 まわされた腕に力が入る。 至近距離で見る瞳はひたすらに冷たかった。 怖いと思ったその瞬間に、今度は唇が首筋に落ちてきた。 「・・っ。」 びくりと身体が震える。 それでもやはりリコの身体に力は入らなかった。 こんなこと知らない。 何がなんだか、わからない。 こんな司は知らない。 ひっくひっくと喉が震えて、にじみ出た涙がぽろぽろと零れ落ちる。 司の力がいっそう強くなった。 顎をもちあげられて再び唇をふさがれる。 リコはあえいだ。 苦しくて熱くて何も考えられない。 わけがわからなかった。 「・・けて・・」 激しい熱の合間にリコはつぶやいていた。 呼吸ができないせいですでに頭は朦朧としていた。 ぼんやりとする意識の中、それでも助けを求めていた。 「・・くん・・」 こんなときリコを助けてくれるのはいつだってその人だった。 いつだって。どんなときだって。 だからその名前はするりと唇から滑り出た。 考える間なんてなかった。 それはリコにとって一番頼りになって優しい、たったひとりの人の名前だったから。 「助けて・・『司くん』。」 司の動きが、止まった。
呼ぶ名前
「僕の太陽:22」に続く
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