■きなこさんのすてきなまいにち■






きなこさんは大きな大きな、猫という生き物です。
毛並みの色はきんのいろ。けれども今住んでいるおうちではきなこもちの色だと言われています。
だからでしょう。おうちの女の子は、その猫に「きなこ」という名前をつけてくれました。
きなこさんはとっても嬉しく思いました。なぜなら、きなこさんは自分で名前をつけることができなかったからです。


きなこさんの1日は一緒に寝ている女の子の目覚めと共にはじまります。
女の子は起きるのがとっても早いので、きなこさんはほんの少しばかり寝たりなくておふとんの上でしばらくごろごろしています。
そうしているとだんだん女の子の体温であたためられていたお布団が冷たくなっていきます。お鼻がむずむずして、ぶしゅんとくしゃみが飛び出ることもあります。
すると着替え終わった女の子があわててきなこさんを抱っこして、もうひとりの同居人のところに連れて行ってくれます。

もうひとりの同居人は人間の男の人です。
この男の人は大きくて寝相がわるいので、きなこさんはあまり一緒には眠りません。
むぎゅうとつぶされてしまうことも一度や二度ではないからです。
でも寒いのよりはましなので、がまんしてお布団に潜りこむことにしています。
きなこさんはとってもかんだいなのです。

そこでぐうぐうと眠っていると、やがていい匂いがしてきます。
そうして女の子が男の人ときなこさんを起こしにきます。
男の人も寝起きはよいので、朝からとても元気です。
かんぷまさつをしたり、朝からじょぎんぐをしていたりしますが、きなこさんはよくは知りません。
何故ならきなこさんは眠いのです。そんなことにつきあってはいられないのです。
その時間になるとこたつというものがぽかぽかと温められています。
だからきなこさんは男の人がかんぷまさつを始めるとその中にもぐりこんで、三度目のすいみんを取るのです。

そのうちにてれびで「きょうのわんこ」がはじまります。きなこさんはたいていその時間に起きて、女の子にごはんをねだります。
女の子は「もしかしてきなこさんはきょうのわんこが好きなんだろうか」と不思議がっていましたが、実はまったくのぐうぜんだったりします。
きなこさんの中の体内時計がぐうぐうと唸るだけなのです。

ごはんを食べ終わる頃になると女の子ががっこうに出かけます。
男の人といっしょにお見送りをして、そうしてぽかぽかと日の当たる縁側で毛づくろいをします。実はきなこさんはとってもきれい好きなのです。
男の人はおしごとに出かけるまでも元気です。きなこさんのおひるごはんと女の子のためのおゆうはんを作って、お部屋のなかを掃除機できれいにします。
おゆうはんを作っているときに余るおいしいものを狙って、ときどき男の人ときなこさんでたたかいが繰り広げられたりもします。
それがしいきちんのときなど、きなこさんはちょっぴり本気になります。
けれども、「のぞみはお前のそのでぶい身体のことを気にしてシーチキン禁止にしとるんやで? せやから駄目。これはあげられません」と言われるとぐうの音もでません。
女の子がきなこさんのことを本当に大切にしてくれているのはよおくわかっているからです。

男の人はお昼前に出かけていくので、きなこさんはその前におうちを出ることにしています。
「いってらっしゃい。気ぃつけえな」男の人がそういってくれるのできなこさんも可愛くぶにゃんと返します。「おまえもな」という意味です。
お天気の良い日は、こうしておさんぽにでかけます。

きなこさんの住んでいるところは家がとても多いところです。
けれどもよく見ると神社がたくさんあって、そのなかには大きな木がいっぱいあります。神社に行って昔なじみにあいさつしたりおはなししたりごろごろしたりしていると、あっというまに時間がたってしまいます。
お昼になり、きなこさんはすこしだけ悩みました。
おうちにかえってごはんを食べるか、それとも行きつけのところでごはんを食べるかです。
しかしすぐにしっぽを揺らしながら今日は行きつけのところにいくことにしました。
おうちのごはんは帰ってからおやつとして食べればよいのです。
おやつはべつばらなので、いくらでも入ることをきなこさんは知っているのです。

行きつけのところにいく途中、昔なじみの灰色さんに会いました。
灰色さんはきなこさんにフーと唸っていかくしてきましたが、きなこさんは聞こえなかったことにしました。なぜならきなこさんは今はとてもおなかがすいていたからです。きなこさんの体内時計は正確にうなり続けていたのです。フーとか言ってられないのです。そんなひまなどないのです。
けれども灰色さんはきなこさんにお相手してほしいようでした。あんまりにもしつこいのでちょっぴりだけおあいてすることにしました。
けれどもほんのちょっぴりだけです。きなこさんはおなかがすくので、むだなあらそいなんてだいきらいなのです。

そんなこんなで少しだけ遅れて行きつけのところにいくと、おともだちがごはんを出してくれました。自分の家で食わんかとかぶつぶつ言われましたが、出してくれたからどうでもいいのです。
ぶつぶつともんくを言うわりには、おともだちはなかなか良くしてくれます。ごはんもとってもおいしいのです。
そこでおひるねしたりおはなししたりおひるねしたりおひるねしたりしていると、すぐに日が暮れてしまいます。ふゆのたいようは出ている時間がとても短いのです。
そういえば今日はおうちにおやつとしておひるごはんも残していたのでした。
これはたいへん。とっても忙しいことになりそうです。

あわてておうちに帰ると、おおいそぎでおひるごはんを食べます。
やっぱりおいしいのですが、いそがねばなりません。
おひるごはんを残しているのを見つかると、おゆうはんが少なくなったりするからです。
きなこさんはあわてました。
きょういちばんの頑張りです。全身全霊。全力でごはんをたべるのです。
そうしてごはんを食べ終わった頃、ちょうどおうちに女の子が帰ってきました。
せーふ。
きなこさんはほっとしながら女の子をお出迎えしました。
そうして出されたおゆうはんも、とってもおいしくいただきました。


夜も深まる頃、男の人が帰ってきました。
おやしょくを食べながら、女の子ときなこさんに今日はどうだったと聞くので、きなこさんは忙しかったとこたえました。
男の人はそーかそーかと笑っています。ねこのことばなんてわかるはずはないのですが、それでもなんとなく通じているような気がするからふしぎなものです。
それはもしかしたらこのふたりが、きなこさんの「かぞく」、だからなのかもしれません。

男の人はもう少し起きているので、女の子ときなこさんは先に眠ることにしました。きなこさんがお布団に潜り込むのを見て、女の子はでんきをぱちりと消します。
そうして自分もお布団に入って、きなこさんの毛並みをやさしくなでました。

「おやすみ、きなこさん」

きなこさんも答えました。
とってもしあわせなまいにち。
それがずうっとつづけばいいなあと思いながら。


おやすみなさい。またあした。










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2010.8.7