むかしむかしあるところに、可愛らしい女の子がおりました。
女の子は男らしくて恰好よいお父さまと、美しくてやさしいお母さまと仲良く幸せに暮らしておりましたが、あるときお母さまが病気で亡くなってしまいました。
お父さまはお母さまを恋しがって泣くまだ幼い女の子を哀れに思い、新しいお母さまを娶ることにしました。
新しいお母さまには娘がふたりおりました。
女の子はお母さまとお姉さまがふたりもできたことに喜びました。
ところが今度はお父さまが、不慮の事故で亡くなってしまいました。
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「そして今に至るってわけなのよ」
薄暗い屋根裏部屋の中、ぼろぼろの服をまとった女の子が不服そうに言いました。
女の子の目の前にはこれまた薄汚い机がひとつあって、そのうえにはひとつの影がちょこんと座っておりました。
その影に向かって、女の子は言いつのります。
「あたしって本当にかわいそうだわ。お父さんもお母さんもいなくて、いじわるな継母と根性のひんまがった義姉に毎日毎日いじめられて、ごはんもろくにもらえないで一日中働きづめ。着る服は穴の開いたぼろばかり。ねえ、どう?可哀そうでしょ」
「たしかにかわいそうだけど」
そんな女の子の声に答えたのは、ひとつのかわいらしい声でした。
「そういうのは自分でいうもんじゃないなあ。しかも毎日毎日おんなじことばっかり。なんだか同情する気をなくしちゃったよ」
「いいじゃないの」
女の子はぷんとむくれました。
「あの人たちに言い返すと何倍もの言葉でいじめられるんだもの。だからあたしはすっかり無口になっちゃった。あんたぐらいあたしの愚痴を聞いてくれたっていいじゃないの」
「でもその愚痴も毎日というのは飽きちゃうよ。もっと建設的なことを僕は話したいな」
「建設的なことってなんなのよ」
「そうだねえ……たとえば、いじめられるのが嫌ならこの家から出ていけばいいじゃない。外で働くのもきっと楽しいよ」
「そんなことできるわけないじゃない! 」
女の子は目を見開き、ぶんぶんと首を振りました。
そうして机の上のものをきっと睨みつけます。
「もう、そんないじわるなことばかり言うなら、これからはパンもチーズも半分こにしてあげないから」
「わ、それは困るよ」
机の上のものが慌てたようにぴょんと飛び上がりました。
そうしてひげをしおしおと垂らしながら困ったように言います。
「まったく、君はいじわるだなあ、シンデレラ」
シンデレラと呼ばれた女の子はぷんとしたまま机の上の灰色ネズミをにらみつけました。
「ふんだ。あんたのほうがいじわるじゃない。単なるネズミのくせに」
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