「僕の太陽:2」<職探しと初恋> |
リコがその人に恋をしたのは、もう5年も前のことになる。
職探しと初恋
リコはその日、途方にくれていた。 三日もの間、ほとんど歩きづめの足は鉛のように重かった。 お金が無いからおなかだってすいていた。 「どうしよう・・。」 少し休みたかったがこの辺りの土地勘のない梨子にはどこに公園や図書館など無料で休める場所があるのかわからなかったし、ましてやお金の無い状態では喫茶店やファーストフード店に入るわけにもいかなかった。 とはいえぼうっとしていると何故だかなんとなく怖そうな男の人たちに声をかけられてしまうので、うかつに立ち止まることも出来ない。 「・・あ。」 リコはとりあえずとぼとぼと歩いていたが、ふいにその足を止めた。 「いい匂い・・。」 辺りを見渡すと、洋風で洒落た雰囲気の建物が目に入ってきた。 看板には英語のようなものが綴られていたが、もちろんリコにはさっぱり読むことはできなかった。 おそらくレストランなのだろう。空腹を刺激するような良い匂いはそこから漂ってきている。 なんとなく引き寄せられるようにそのレストランの前まで来たリコは、その建物と建物の間に細い路地があるのに気がついた。 路地だというのにわりに綺麗で、きちんと掃除されている印象を受ける。 リコはふらふらとその路地に入り込んで、ゴミ箱であろう大きな箱の脇に座り込んだ。この影なら人の目には入らないし、なによりもうくたくただった。 レストランであろう建物にもたれかかると上の方からいっそう良い匂いが流れてくるのがわかった。換気扇があるのだろう。ぶうん、ぶうん、と規則正しい音も流れていた。 (ああ・・いい匂い・・。これなんだろう。お肉を煮込んでいるのかな。・・おいしそうだなあ・・。) ぐう、とお腹が鳴る。リコは苦笑して、鞄の中に入れていた就職情報誌を引っ張り出した。 「全滅かあ・・。」 開いたページにはいくつか赤いマルをつけている。その場所に大きくバッテンを付け足しながらリコはつぶやいた。 「困ったな・・。」 リコは基本的に自分はのんきなほうだと思っている。 しかしこの三日で受けた面接を20件連続して不採用となってしまうと、さすがのリコも落ち込まざるをえなかった。 しかし待っている弟のことを思うとそんなことを言ってはいられないのも事実だった。 おそらく今回のことで一番辛いのは弟だ。いくら鈍いリコでもそのことぐらいは容易に想像できる。 本当に本当にたったふたりっきりになってしまった。 そうしてリコはその弟よりも5歳も年上だった。 ふたりっきりの「家族」。 「お姉さんだもんね。うん、わたしが頑張らな・・んぎゃっっ!!!!」 大声で決意を固めようとした瞬間、後ろから何かに押されてリコは思い切り前につんのめってしまった。 路地にひっくり返ったリコは目の前に星が飛ぶのを見た。ぶつけた額がとにかく痛い。 「い・・痛い・・。」 「へ?」 リコはひっくり返った格好のまま声のする方を振り返った。 痛みのあまり生理的に涙がにじんで、視界がゆらゆら揺れて見える。 そこには白いズボンを履いた足が二つ並んで見えた。 「え?わ、うわ、なんでこないなとこに子供がおんねんっっ・・って場合やないわな。おい、お嬢ちゃん大丈夫か?」 慌てたような声と共に、ふいに白い服を着た男の顔がリコの視界に飛び込んできた。 先ほどの二本の足がしゃがみこんだのだ。そう思いつつその顔を見上げる。 若い男だった。年の頃は20歳かそこら。 むきだしの髪は稲穂のような茶色で、薄暗い路地の中だというのにひどく明るく見えた。 男は驚いたように瞳を見開いていたが、その瞳も不思議な薄い色をしている。 その瞳の色が珍しくて、リコはほんの少しびっくりしてしまった。 「だ、大丈夫ですっ。」 急に恥ずかしくなってあわててリコは口を開いた。 「ご、ごめんなさい。わたしがこんなところに勝手に座ってたからなんです。ド、ドアがあるって気づかなくて、あの。」 「いや、それよりお嬢ちゃんの怪我の方が大変やろ、それに・・。」 「は、はいっっ。」 答えるリコに、男は明るい笑みを浮かべてみせた。 「その体勢やとぱんつが丸見えやで?」
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