「或る若社長の花嫁」

或るともだちとヒーローの話








「おい優次、お前本当に幽霊が見えるのかよ」
「あはは。ばっかみてー。そんなんいるわけないじゃん」
「きもちわりー」
「嘘にきまってんだろ」
「おい、なんか言えよ」

どん、と小突かれて小柄な少年は倒れこんだ。背中に背負っているランドセルのおかげで痛くは無い。しかしその拍子に被っていたフードが頭から外れてしまった。
「……あ!」
あわててフードを被りなおそうとするが、それは1本の手によってさえぎられた。
「おまえ、いっつもそれを被ってるよなー」
「あれじゃね?かっこいいとか思ってるんじゃね?」
「というかいっつもそのパーカー着てるよな。ちゃんと洗濯してんのかよ。きったねー! なあ、レン」
開かれた視界の中、優次を囲むのは5人のクラスメイトだった。
そのうち4人は優次を小突いたりからかう言葉を投げているが、1人だけはほんの少し離れた場所でそれをじっと見ている。
しかし優次はその視線を受けることができなかった。その瞳に浮かぶ色、それを知っているからだ。
声をかけられたその子供―レンの声が聞こえた。
「ほんとだよな」
つぶやかれた言葉にもその色と同じものが潜んでいた。ひたすらに冷たいそれに優次は目を伏せる。
「お前って、本当に汚い」
その言葉にぐ、と胸が痛んだ。鼻の奥がつんとする。
蹴られても、小突かれても、それはあまり辛くない。それよりもっと辛いのは心底から嫌われることだった。嫌われて、疎まれて、存在自体を否定されることだった。
優次は俯く。
フードが外れて視界が開けた今は、ひたすらに俯いて少しでも視界を狭めるしかなかった。
そのとき。
ひとつの凛とした声があたりに響きわたった。


「いじめ?」
声はひたすらに凛としていた。
光のようにまっすぐで、何者にも遮られないもののように朗々と響き渡る。
「かっこわるーい」
俯いたままの優次は見えなかったが、囲んでいたクラスメイト達がざわつくのが気配でわかった。
「かっこるーい」
もう一度声が響く。右隣に居るクラスメイトが声をあげた。
「なんだよ!」
「集団でひとりの子を一方的にいじめるなんてかっこわるいなあって言ってるの。男のくせになさけなくない?」
優次は瞬いた。その、明るく強気な声には聞き覚えがあったのだ。
そっと瞳をあげると何時の間にあらわれたのだろう、少し離れた路上に黄色い制服を着た少女がふんぞりかえって立っていた。
右手には相変わらずのぼろぼろの蝙蝠傘を握っている。頭の左右でくくっている長い髪が風に揺れていた。
「美幸さん……」
「あっこいつ知ってる! 」
クラスメイトの一人が声をあげた。
「隣町の変なビンボウ女だ! こいつに関わるとロクなことがないって兄ちゃんが言ってた!」
すると、少女は笑みを浮かべたまま鼻を鳴らした。
「いきなり失礼なガキね。あんた、名前は?」
「た、田口晃……」
「ああ、田口ね。確か隣のクラスにそんな奴がいたような気がするわ。よーし、あんたの兄ちゃんぶちのめーす!」
「へ? え? や、やめろよ! 」
「あ。ぶちのめすなんて言ってはいけないわね。口が悪い女の子は桜井さまに嫌われちゃうもん。ええと、じゃあ半ぶちということで許してあ・げ・る! 」
「半ぶち!? 」
「あたしってやさしいわよねえ」
「……な、なんだよこのババア、馬鹿なんじゃねえの?」
「あらあら。馬鹿っていったほうが馬鹿ってのは世界共通のうたい文句なのよ? 馬鹿なうえに乳臭いなんて赤ちゃんそのものねえ。あらあら、どこの赤ん坊でちゅか〜? ほれ、早くママのとこに帰っておっぱいでももらってなさいなくそガキマザコン野朗」
「な……! 」
美幸の表情に焦りは無い。強気にさばさばと、そして意味もなく自信満々に言い切られる言葉は良く通り、子供達のひとつの台詞に返される倍以上の台詞はどこまでも容赦がなかった。
……もっとも、大人げないことこのうえなかったが。
しかしそれだけに子供達は戸惑っていた。大人に諫められたことなら幾度となくあるが、
しかしこの少女の諫め方はそれとはまったく違うのだ。
いうなればめちゃくちゃであり、全く先が読めない。

その時、ふいにレンが口を開いた。
「いじめてないよ」
それは素直な声に聞こえた。真面目で誠意に満ちた、嘘という言葉さえ知らないような無垢な子供の声をしていた。
「ふざけてただけ。なあ、優次」
急に矛先を向けられ、優次はぎょっとして顔を挙げる。レンのそれと目が合った。
「……あ」
レンの瞳は青みががった黒い色をしている。青灰色の瞳は綺麗で、それでいて痛いほどに冷たかった。
優次は目を逸らした。
「うん……」
「ほらね。でもごめんなさい、お姉さん。いじめているように見えていたなら俺たちの悪ふざけが過ぎたんだよね。ごめん、優次」
美幸はその言葉を聞いて腕を組んだ。首を傾げ、唇をとがらせる。そうして何かを言いたげに口を開いた。
「あのねえ、あんた……」
「う、うん! も、もういいよレンちゃん……」
優次は美幸の言葉を遮るように慌てて声をあげた。
名前を呼んだとたんにレンの瞳が冷たさを増す。
しかしレン笑顔だけは絶やさずに、そうしてクラスメイトたちを促した。
「みんな、行こう」


「優次、大丈夫?」
子供達が去った後で、美幸は尻餅をついたままの優次に駆け寄った。
躊躇なく手を伸ばし、そうしてにやりと笑う。
「あんた、いじめられてんのねえ」
「……は、はい……」
「まあいじめられそうなツラしてるもんね」
美幸はあっさりといいながらも優次を引き起こした。そうして衣服についた土を払ってくれる。
「あ、あの、ありがとうございます。美幸さん」
優次はぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまって……」
するとぺしりと頭をはたかれた。
「あいたっ」
「あんた、あの子をかばったわね」
「え……」
「最後にこざかしいことを言って煙に巻こうとしていた金髪のガキ。あいつをかばったでしょ?」
「……」
「レンちゃんって呼んでたもんね。友達だったの? でもさ、あんなことをする奴なんて、本当の友達じゃないと思うわよ」
「……」
「ま、友達が居なかったあたしがいうのもなにかと思うけど」
さらりと言われた言葉に優次はきょとんとする。
美幸はその顔を見て何故だか満足したようだった。にんまりと笑いながら頷く。
「あたしも小学生のころはそりゃあいじめられたもんだわ。貧乏だし、プライドも今より無駄に高かったし。だから友達なんていなかったの」
ああ、でも。
美幸は嬉しそうに続けた。
「でもね、ヒーローなら居たのよ。こんなときに颯爽と助けてくれる、厳しいけどかっこいい正義の味方! 」
「え……?」
「聞きたい?」
美幸はにやりとする。
「ほら、ならしゃんとした顔をしなさい。これから桜井さん家に行くのよね? なら、桜井さまや椿さんに心配かけたくないんでしょ?」
そうして優次の肩をぱしんと叩いた。
「気分転換をかねて、行きがてらに話してあげるから! 」



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美幸ははあ、と息を吐いた。
歩く速さがいつもより遅いのは足に怪我をしているからだった。
背負っているランドセルすら重く感じられる。
とぼとぼと歩きながら、もういちど大きく溜息をついた。

怪我をするのは日常茶飯事だった。むしろ物心ついたころから小さなハプニングは美幸の日常にぺったりとはりついて、もはや当たり前のようになっていた。
だから怪我ごときでは落ち込まない。
落ち込むのはもっと他のことだった。そうしてそれは、今の美幸にはどうしようもないことだったのだ。
目の端に涙が滲む。手の甲でごしごしとそれを拭っていると、背後から激しく空気を切り裂く音が響いてきた。
「よけろ! 」
誰かの声が聞こえた。
とっさに振り向いた美幸の目に飛び込んできたのは、こちらに向かって突っ込んでくる一台の自転車の姿だった。
美幸は呆然としていた。避け様にも時間がない。
小学1年生の子供にはその姿はあまりに大きく、そうしてあまりにもはやすぎた。
だから目を見開いて呆然としてた。
その間、1秒にも満たなかっただろう。そんなわずかな時間だった。
するといきなり身体が後方にひっぱられた。
その鼻先を自転車がものすごい勢いで通り過ぎていく。それに思わず目を瞑ると、倒れそうになる身体を誰かがうしろから支えてくれた。
やわらかい感触。そうしてぼそりとした低い声が耳元で囁かれた。
「大丈夫か? 」

それが、ヒーローとの出会いだった。



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「あたしはね、小さい頃からずっと不運だったのよ」
美幸は言う。
そうして、まあ今もだけど、と黒い傘を振り回しながら軽快に笑った。
「だけどねえ、昔は身を守る術がなかったの。飛び込んでくる不運に対抗する方法もなし。小学校に入るまではお父さんとか根倉が守っていて入れたんだけど、小学校に通いだしてからはそうはいかないでしょ?だからね、ずっと怪我をしっぱなし」
優次は瞬いて美幸を見上げる。
美幸はあまりに明るく話しているが、それは中々大変なことのように思えた。
「ま、怪我はね、仕方がないの。その頃にはもう慣れてたし。だけどね、あたしが怪我をしたり、悲しい顔をするとお父さんが悲しい顔をするのよ。あと、ついでに根倉もね」
自身の不幸の元凶であるはずの男の名を呼ぶ美幸の表情は変わらず明るい。黒い傘を一振りして、飛んできた空き缶をゴミ箱にはじき飛ばすという離れ業を繰り出しながらけろりとした表情をしていた。
「でもあの頃のあたしは怪我ばかりしてたし、あたしのそばに居ると巻き添えで怪我をするから嫌われててさ。いじめにもあってて」
「え……」
思わず声をあげた優次を見下ろして、年上の少女はさらに嬉しそうににんまりした。
「そんなあたしを『助けて』くれたのが、フジせんぱいだったの」


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自転車から美幸を助けてくれたのは、いくつか年上であろう子供だった。
背はあまり高くない。深く被った帽子の下から覗く瞳は涼やかで、背筋がまっすぐに伸びているのが印象的だった。
小学生であるのにひどく無口で、愛想と言うものが欠片もない。
だから美幸がありがとうとお礼を言っても、ひとつ頷いただけでさっさと去っていってしまった。
けれども、それからも学校帰りに3回助けられた。
自動車から、野良犬から、空き缶から。
そうして4回目に小石が飛んできた時、それを手で受け止めて助けてくれたその子供はそこでようやくおかしいと感じたらしい。
そうして美幸の話を聞いた子供はこう言ったのだ。
「ならばお前はもっとドウタイシリョクを鍛えた方がいい。今のままでは大怪我をしかねない」
今までそんなことを言ってくれた人はいなかった。
思わず呆然とする美幸に、子供はあくまで淡々と、しかしこう言ってのけた。
「……自分でよければ力になるが」



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「あ、あのう、美幸さん」
「ん?なに?」
「その人って、子供なんですよね……?な、なんか人間ばなれしているような気が……」
美幸の話を大人しく聞いていた優次はおずおずと尋ねる。
すると美幸は何故か誇らしげに胸を張った。
「子供だったわ。あたしより5つ年上だったから、当時は小学5年生だった。でもすごく強くてかっこよかったの。ああ、さっきの話なら本当よ?野良犬から助けてくれた時なんて、ただそいつをじっと見ただけだったんだけど、それだけでそいつは逃げていっちゃった。一度なんて誘拐されかけたことがあるの。そのときもひとりで男5人を叩きのめしてくれたわ」
「え、ええ……!? そ、そのひとって、実はその、人間じゃ、ないとか……?」
「馬鹿ねえ、優次」
美幸は呆れたように優次の額をぱちんとはたいた。
「れっきとした人間よ。人間はね、実のところなによりも強いんだってお父さんが言ってた」
「は、はあ……」
「あんたはいろんなものが見えるからそうは思えないのかもしれないけど」
当たり前のように少女は言う。
「本当よ?」


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美幸はその子供のことをフジせんぱいと呼ぶことに決めた。
子供の苗字には藤という花の名前が使われており、その花の色が子供の持つ雰囲気に良く似合っていると思ったからだった。
フジはれっきとした人間で、子供だった。ヒトではない根倉がいうのだから間違いないだろう。
しかし、常識ばなれの強さを持つ子供だった。
「私の祖父は古武術の師範だったんだ」
いつか、フジが話してくれたことがある。
「私は小さな頃からそれを学んでいた。だから少しばかり身を守ることに長けているのだと思う」
どちらかというと幼い容姿をしたフジだったが、その口調は堅苦しかった。ほとんど笑うことも無い。無口で、いつも不機嫌そうな顔をしていた。

自分でよければ力になるが。

そう言ってくれたフジの元で修行を始めた美幸は、はじめのうちは後悔の嵐に襲われることになった。フジの特訓は、それこそ容赦なかったのだ。
1にも2にも走りこみ。それが終わると吊るした竹を使っての俊敏性の訓練。ボールを使ってそれを避ける訓練。目を開けたまま水に飛び込む訓練。そうして組み手。傘での素振りと打ち合い。
次から次に繰り出される特訓の数々はすさまじかった。
フジはおそらくは天才と呼ばれる存在だったのだろう。だからなかなか上達しない美幸を見ては不思議そうにしていた。美幸はそれを見るたび、あまりに悔しくてこっそりと涙を流していた。
フジは強い。強いなら、あたしを守ってくれるって言ってくれたらいいのに。
それは自身を鍛えるよりもはるかに楽なことだった。だから八つ当たり気味にそう思うこともしばしばだった。
しかしそれでも美幸の怪我は確実に減っていった。以前は飛んでくる空き缶なんぞ避けられなかったのだか、1年もすると空を舞う空き缶の銘柄まではっきりと見えるようになった。



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「フジせんぱいはね」
美幸は誇らしげに続けた。
「私がお前を守ってやろう、とは一度も言ってくれなかった。だから純粋にいうとヒーローではないのかもしれない。だけどね、今ではそれでよかったと思ってる。あたしは守って欲しいんじゃない。自分で自分自身をきっちり守って、お父さんや根倉を悲しませたくないだけだったんだから」
そう言う今の美幸の身体には怪我のひとつもない。
「フジせんぱいはそれをわかっていてくれたのよ」
そういって嬉しそうに笑う美幸を見ながら、優次は素直に頷いた。
「素敵なひとなんですね」
「うん!」
優次はそこではたと気がついた。
「あのう、もしかしてその人が美幸さんの初恋のひとなんですか?」
そう言うと美幸は一瞬だけぱちくりとし、そうして闊達に笑い出した。
「あはは。違う違う! 」
「そ、そうなんですか……」
「そうよ。だいたいフジせんぱいには好きな人が居たし。それになにより……あ!」
ふいに美幸が瞳を輝かせて叫んだ。
「フジせんぱい! 」
優次は慌てて美幸の目線の先を追った。
噂をすれば影が差す。
まさにそのことわざどおりに、そこにはひとつの影があらわれていた。
白い胴着に紺色の袴をはいている。凛と伸ばされた背筋と大きくも涼やかな瞳のせいだろうか。その立ち姿はひどく格好良く優次の目にうつった。
美幸の声にこちらを向いた人物の背後には大きな道場があって、そこからはにぎやかな声が聞こえていた。
「美幸か。元気か? 」
「はい、おかげさまで! フジせんぱいはバイトですか? 」
「ああ。この光琳道場で」
「あれ? でもせんぱいの流儀と違うんじゃないんですか? 」
「私もそう思ったんだが、道場主が祖父の知り合いだったらしくてな。ぜひにと言ってくださったんだ」
「ほえええ〜。よかったですねえ! 」
「ああ。お前もたまには家に遊びに来い。ゴロウも会いたがっていたぞ」
「本当ですか!? ようし、じゃあゴロウに今度こそ負かしてやるってお伝えください!そんで、今度こそあたしがフジせんぱいの一番弟子の座をゲットするんです! 」
「……そ、そんなに熱くならずとも…いいから普通に遊びに来い」
「はい! えへへ。じゃあ今度友達とお邪魔します! 」
ふたりは実に親しげに話している。
美幸はフジのことを恩人ともヒーローとも言ったが、優次から見てもそれはまるきり友達同士の会話に見えた。
(ともだち……)
ふいにレンの顔が浮かんできて優次は俯いた。レンはともだちだった。優次は今でもレンのことを友達だと思っている。だけれどレンはそうは思っていないだろうことも知っていた。そうして、それが自分のせいであることも。
「優次! 」
ぼんやりと考えていると、明るい声が耳に飛び込んできた。
あわてて視線を上げると、美幸がこちらに向かって手招きをしている。
「は、はい! 」
慌ててかけよると、美幸が優次の頭に手を置いた。
「フジせんぱい! この子、友達の優次っていうんです。今度、この子と遊びに行っていいですか? 」
「え、え、ぼ、僕……?」
優次はぽかんと美幸の顔を見上げた。
「なによ。まさか嫌だっての?」
「い、いえ、そうじゃなくて……」
慌てて首を横に振る。友達、と言う言葉が妙にくすぐったくて頬が熱くなった。
「この子、ちょっと辛気臭いけどいい子なんですよ」
「そうか」
美幸の言葉にフジが頷く気配がした。そうして優次に視線が向けられる気配も。
おずおずと顔をあげると、フジの大きな瞳がまっすぐに自分をみつめていた。
(うわあ……)
ヒーローだ、と美幸が言ったのもわかる気がした。
美幸より5つも年上には見えないほどの幼い容姿をしているが、その瞳はどこまでもまっすぐで凛々しく、そうしてどこか静やかなあたたかさがあった。
「よろしく。優次」
「は、はい!」
差し出された手を握る。
やわらかなてのひらは暖かかった。



フジと別れてしばらくして。
美幸はふと気づいたかのように優次に目線を向けた。
「優次、フジせんぱいがあたしの初恋の相手じゃないって、納得した? 」
「あ」
さきほどの会話のことを言っているのだろう。
優次はあわてて頷いて、そうして頬を赤くした。
「は、はい……。僕、勘違いしていたみたいで」
「ふっふっふっ。まあ勘違いもするわよねえ〜。カッコいいヒーローっていうからには男って思うわよね、普通」
「はい」
美幸の恩人の姿を思い出して優次は思わず頬を緩めた。
一見ではヒーローとは思えないような、幼い容姿の女の子。
「約束もしたし、今度遊びに行こうね! 」
「……はい!」


その約束から1週間後。
美幸とフジの家に遊びに行った優次は、そこで見覚えのある猫を発見して驚くことになるのだが……。


それはまた、別の話。





2010・4・24










或るオレンジの音色









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